ハイエンド1DDイヤホンレポート ① VEGA

タイトルの通り、今回はダイナミックドライバー1基を搭載したハイエンドイヤホンの中から特に優れた機種をピックアップし、10項目で評価を行ってみました。
レポートする基準は音質評価の高さを最重要視し、次いでメーカーの評価の高さ、話題性、音質の偏りなどを考慮しました。極力平等な評価とするため一部を除き純正ケーブルで評価し、実際に購入検討をする上で参考にできる様、音質のみならず実用性にも踏み込んだ比較を行いました。各機種ごとに稿を改めて記事にしますので、後程要望があれば追記や機種追加等したいと考えています。

1.試聴環境

まずは試聴機材から紹介します。試聴時には、以下の機種から最適と判断したものを用いました。

DAP

・Fiio M11Plus
・A&K SE180(SEM4)

アンプ

・Romi audio BX2Plus
・KAEI TAP-1
Cypher Labs AlgoRhythm Picollo

mini mini

SONY MUC-B20SB1 4.4 to 4.4
・uran AUDIO Ultimate AZURE 4.4 to 4.4
・ALO AUDIO SXC8 mini 3.5 to 3.5

評価に用いた機材


試聴音源は特定のもので聴いたわけではありませんが、全機種共通で聴いたアルバム/音源は以下の通りです
・Sia 『This is Acting』
・YOASOBI 『THE BOOK2』
椎名林檎ニュートンの林檎』(主に丸の内サディスティック)
・Chicago 『The heart of Chicago』
・dj-jo 『The Legend of Jo 2018』


2.評価基準

続いて各機の評価基準の説明です。以下の各項目を10点満点で評価し、機種ごとにレーダーチャートにまとめました。評価基準には音質評価の高さという観点だけでなく優劣で言えない部分の評価も含まれますので、点数が高ければ良いというものではなく、あくまで音質の傾向の参考程度に見て頂けると幸いです。

〈評価項目〉
①高音域・・・どれだけ高域が明瞭に聴こえるかを評価。情報量の多さ、分離感、表現の多彩さ等も評価に含まれる。全体の帯域バランスが悪くても、その音域が優れていれば高評価になる。
②中音域・・・高域と同様。
③低音域・・・高域と同様。
④解像度・・・イヤホンの基礎性能を語る上で外せない要素。各音域で音がどれだけ細かく分解されているかを全体として見て評価。情報量の多さも評価に含まれる。
⑤音場・・・音が鳴っていると感じる空間の広さを重要視し評価。空間表現力や立体感の有無も評価に含まれる。
⑥聴きやすさ・・・聴き疲れせず、長時間聴いていられる音かどうかを評価。装着感など、音以外の部分が理由で長時間聴けなくなったとしても低評価にはならない。
⑦スピード感・・・音の立ち上がりや抜けの速度を評価。音の出だしが速く明瞭に表現される程高評価で、残響が長く残ったりすると評価が下がる。「レスポンス」とほぼ同義と考えて頂いて問題ない。
⑧ジャンル相性・・・オールジャンル楽しく聴ける音なら高評価、特定のジャンルしか楽しく聴けないなら低評価になる。
⑨個性・・・「その機種でしか聴けない音かどうか」を評価。唯一無二な部分があればあるだけ高評価になる。
⑩実用性・・・ポータブルオーディオ機器として、どれだけ手軽に使えるかを評価。機器単位での評価なので、複数の環境で試聴したものについては全て同じ数値になる。要求パワーが高くアンプが必須だったり、良い音で聴ける環境が限られたり、使用する上での問題があったりすると低評価となる。逆に、プレイヤー1台で十分に楽しく使えるなら高評価となる。リケーブルは大減点とはならないが、純正との相性が良いならそれに越したことはないという思想で評価を行った。

※なるべく一面的な視点にならないよう考慮はしましたが、最終的な評価点は主観になりますのでご理解ください。

3.機種別レポート

それでは機器別レポートに移っていきます。2機種目以降の記事では見出し1~2の内容を省略し、これ以下の機器別レポートのみを行います。

① Campfire Audio VEGA
Campfire Audio VEGA

第1回目はCampfire AudioのVEGAをレポートします。VEGAは2016年発売で、CampfireAudioの1DDイヤホンとしてはLYRA、LYRAⅡに続く三機種目でした。同社の1DDイヤホンとしてはVEGAの後にもATLAS、Equinox、VEGA2020が発売されていますが、8.5㎜ADLCドライバーを搭載したモデルは唯一VEGAのみです。筆者の主観になりますが、立ち位置的にも、サウンド的にもVEGAはCampfireAudioのラインナップで外せない存在と考えています。VEGAについては、純正ケーブルのLitz wireが入手できなかったため、SXC8とあわせて評価を行いました。


上流構成はBX2Plus+M11Plusで、ミニミニにはキンバーケーブル製の物を使いました。

VEGA+SXC8+BX2Plus+M11Plus
VEGAの音質評価(10点満点)
VEGA+SXC8

感想など
VEGAは数あるオーディオ機器の中でも屈指の難物です。ケーブル、アンプ、イヤーピース等を相応なレベルと相性のものにした上で聴き方に気をつけなければ真の音を味わえない為、オーディオファンであっても、大半の方は見向きもしないでしょう。
しかし、この音は他のどこにも無い。地鳴りの如く遠鳴りする低域と迫力ある音像は唯一無二で、空間表現も他のハイエンドには無い異質なものです。Campfire Audioの1DD機としてはATLAS、Equinox、VEGA2020等の後継機が出ていますが、筆者は個性という意味では依然VEGAがナンバー1かと思います。
1DDから逸れますが、帯域バランスだけならVEGAはTyp512に似たタイプでしょう。 Typ512は一部で非常に高い評価を受けている印象ですが、筆者は「低域が強烈ながらも、他音域とキッチリ分離されて他音域の見通しを阻害しない」というのがTyp512が高評価される理由の1つにあると思っています。実はこれはVEGAの特徴でもあり、筆者がTyp512を初めて聴いたときに思い浮かんだのはVEGAの音でした。確かに低音がミソなのだけれど、月並みな「低音がすごいイヤホンの音」ではなく、低音以外もキチンと活かす。VEGAやTyp512の凄さはそこにあると思うのです。
純正で評価を行う前提なので踏み込むべきではないかもしれませんが、SXC8はさすがに同じ会社のケーブルだけあってVEGAとの相性は抜群に良いと感じます。元々優れていた音場がさらに拡張され、情報量も増し、純正で低域過多に感じた帯域バランスまでもが大きく改善しました。
総じて、一本あれば完結するタイプではなく、より汎用的な機種を持っている人が幅を求めて購入するような機種かと思います。追求欲が生まれてしまった方には、推したい音です。

*1:余談として、VEGAは発売時から低域の評価が図抜けて高かった印象ですが、発売から6年以上経過した2023年2月現在になって最新の発売機種と聴き比べてみても、低域の質は依然トップレベルと感じます。 筆者は、昨今のトレンドとして1DDイヤホンは中〜高域の表現力が煮詰められていく一方、低域が疎かになっていると感じているのですが、VEGAの低域の相対的な位置が6年間でほぼ変わっていないという事でこの傾向を一層確信させられました。