【レビュー】Luminox Audio Night for Night

昨今は新品オーディオ機器を購入する事もほぼ無かったのですが、ヨドバシでNight for Nightの破格セールがされており、丁度ダイナミック型用のハイグレードな銅線を探していましたので即ポチりました。
私は普段使いしてるイヤホンの殆どがダイナミック型で普段はポタアンに刺して使うことが多いので、ケーブルプラグは3.5mm派です。

製品概要

Luminox Audioは2017年に新設されたばかりの台湾発ブランドで、主にイヤホンリケーブルの開発、製造をしているメーカーです。私は以前本ブランドのDay for Nightを所持していた事があり、見た目に似合わぬ取り回しの良さが印象に残っていますが、音質的には手持ちとの相性が良くなかったため手放しています。
Night for Nightの線材仕様は銀メッキOCC(単結晶銅)と銀メッキ銅のハイブリッド4芯で、メーカーカタログ上の仕様はDay for NightのOCCに銀メッキを付加しただけの違いです。素人目からするとこれだけで音が変わるのかよ?と思うのですが、結論から言うと意外なほど変わるのがケーブルの面白いところですね。

実は、今回購入したNight for Nightは国内代理店経由で販売されている中では最上級のケーブルで、メーカー希望価格で言えばアンダー10万クラスにあたります。しかし、このメーカーはかなり頻繁にセールが行われており、セール時には文字通り価格崩壊レベルの安値になるのでセールを待って購入するのが一般的なようです。発売時9万だったものがセールで6万になったり3万になったりして、「何重価格商法だよ?」と突っ込みたくなる部分はありますが、ハイグレードなものが安く手に入るのであれば待ってでもセールを狙うべきでしょう。

なおLuminox audioの国内代理店はaiutoさんが担当されていますが、他のケーブルメーカーよろしく代理店経由でなく本国のメーカーサイトからも購入可能です。
luminox-a.com.tw

Night for Night よりも上位グレードに位置しているフラッグシップの Luminox や Tri - Light については国内に流通してませんので、欲しければメーカーサイトから直輸入するしかありません。


開封

新品を開封する、という行為自体が久々なので、外装含めて見ていきます。まずは素朴な印象を与える外箱。木目の模様が入っています。
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木目のような模様の外箱

箱を開けると、例によって起毛素材の箱の中にケーブルが入っています。パット見で高級なものだと分かるのはいいですね笑。

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箱の中には起毛素材の下地

続いてケーブル本体です。メーカー画像で見るとほぼ黒に見えるNight for Nightですが、実は全然純ブラックではなく、黒に茶色を混ぜたような独特の色になっています。Day for Nightと同様取り回しは最高です。癖が付きにくく柔軟なのですが、程々に太いおかげで絡まりにくくもなっています。ALO audioのLitz wireくらい細いと絡まりやすいですし、オーグラインなんかは8芯にしても絡まるので、4芯でそこそこの太さがあるのは美点です。扱いやすさはほぼ満点。言うことなしです。

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ケーブル本体

不満ではありませんが、耳掛け部分にメモリーワイヤーが入っている事は意外でした。ワイヤーは結構硬く、Litz wireのものより太くて曲がりにくいです。ワイヤーではなく編み込みと被覆チューブで曲げ癖をつける方法を採用しているメーカーが近年多いですので、このあたりはLuminox audioも今後マイナーチェンジが来るかもしれません。Alo AudioもSmoky Litz wireケーブル以降はメモリーワイヤーを廃止していましたね。

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耳掛け部分はメモリーワイヤー入り

プラグ部分はクリアでハンダ付け跡が見えるようになっています。

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クリアなプラグ部分

・音質評価

前置きはこれくらいにして、次は本題の音質です。
正直、音さえ良ければ取り回しも見た目もどうでも良いというのが本音です。笑
ネット評ではAcoustuneの限定生産モデル「HS1695TI Gold」をはじめ主にAcoustuneのダイナミック型との相性を推す声が多く、前述のDay for Nightが結構音質面で良かったため期待も込めて無試聴購入です。手持ちのダイナミック型とうまく噛み合うかどうかが今回の焦点になります。
そこで、使用頻度がそこそこ高いLYRAⅡ、VEGAの2つでそれぞれ試聴してみました。

【試聴環境】 Fiio M11 pro + Mojo or A5
レーダーグラフについてですが、解像感は情報量と同義です。VEGAの方はチャート上で12まで目盛がありますが、全て10点満点形式で評価しています。遮音性は電車の中で聴くのに支障ないレベルが7.5です。コスパは新品定価ではなく現在の市場流通額を評価基準としています。

①LYRAⅡの場合

LYRAⅡについては純正ケーブルとの相性が比較的良いため、純正と比較しました。

LYRAⅡ + Litz wire

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何のかんので2年以上ローテーションイヤホンの一つになっている構成です。The・ダイナミック型とでも言うべき低音の沈み感が最大の特徴で、「ビシィン!」というようなこのモデルならではの響きがあります。帯域バランス的にはダイナミック型にありがちなピラミッド型です。低音は重い鳴り方ですがほかの音域が特にマスクされる事はなく、ボーカルも良く聞こえます。音色的にはクール系で音抜けが良いサウンドで、中域の情報量が控えめな代わりに見通しが良い音になっています。これら長所の反面、中高音域の楽器の分離感は劣悪な部類です。アコギやハイハット等はあまり気持ち良く聴こえません。低音に特徴がある割には音場も狭く、かなり長所短所がはっきりしていてピーキー。故に音源もかなり選びます。邦楽の男性ボーカルやロック、一部の洋楽は楽しく聴けますが、アニソン等の女性ボーカル系や電子音が多い楽曲はイマイチ持ち味が出ません。
手持ちの中では微妙な評価ですが、低音にハマると定期的に聴きたくなる音です。ベースの音質レベルは十分に高く、電車で何時間聴いていようと不快にもなりません。
一言で言えば、低音の響きとクールで音抜けの良い音色がミソの構成です。

LYRAⅡ + Night for Night

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Mojo + LYRAⅡ + Night for Night

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パッと聴いて驚いたのが、「LYRAⅡの低音」が無い事です。独特の野太い低音が無くなり、高音域の響きとタイト目に沈む低音が特徴のドンシャリサウンドに化けました。パッと聴いて個性を潰してしまったかと思いましたが、女性ボーカルやアニソンの類が格段に良く聴けるようになっており、比較的どんな音源でも楽しく聴ける全方位性を得ました。ダイナミック型のイヤホンは高音をケーブルで補強すると刺さりがちなのですが、LYRAⅡの場合は意外な程に高音が自然な鳴り方をしています。中高音域の分離感がかなり増しましたが、クールで音抜けのいい音色はそのままです。音場感もかなり良くなり、チューニング以外の部分はケーブルのグレードそのままに大幅進化したというイメージです。Night for Nightは銅線ベースなのですが、かなり高音を補強するケーブルのようで、銅線でもこんな音になるというのは新発見でした。私はクールで見通し重視なLYRAⅡのサウンドが好みだったので、その部分が保たれているのは好印象です。Night for Nightは例えばATLASのようなエネルギッシュかつ濃密なサウンドとは相性が良くないのかもしれません。
帯域バランスは大きく高音寄りになったものの、音質レベルは大幅進化。単体で多岐な音源を聴ける万能ホンになりました。

②VEGAの場合

VEGAについては、純正ケーブルの帯域バランスが低域寄りで聞ける音源が非常に限定的だったため、現在使用しているBeat Audio Signal mkⅡ 8 coreと比較しました。

VEGA + Signal mkⅡ 8core

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Mojo + VEGA + Signal mkⅡ 8core (プラグと端子は換装済み)

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某サイトのレビューで複数の方がオススメしていた構成ですが、実際に聴いてみるとあまり相性が良いとは思えない構成でした。
VEGAは純正ケーブルでは低音寄りになりすぎていて音の重心が低く、確かにチューニングはおかしいのですが音色自体はクールで見通しが良く、音場も広大でした。しかし、Signalは単体では中音寄りのケーブルで音像を濃密にさせるタイプであり、ゆったりした空気感と音場がミソのVEGAの音とは相性が良くないと感じました。音質レベルが高いのはわかるのですが、VEGAの個性を丸潰しにしてしまっています。
音が濃密になりすぎて音場も狭くなり、リアリティは純正と比較しても半減しました。まあ、ポータブル環境でリアリティがどうこう言う時点でオーディオファンから素人扱いされそうですが....。
ここまで散々な評ですが、チューニングとしては純正で過剰に低音に寄っていたものが改善され、中域主体のエネルギッシュなバランスになりました。低音域は元々質が高いため、このケーブルでも深く沈む感じがあります。高音はやや刺さり気味でウォーム寄った音色になっており、全体として濃密な情報量でふくよかに聴かせるタイプです。
ベースの音質レベルは明らかに上がっており情報量も増えているのですが、イヤホンの特徴とケーブルの特徴が噛み合っておらず、使い分けする上では相性が良いと言えません。濃密さを求めないのに8芯にしたのが間違いとも言えますが、そもそもSignalは超高解像度系のBA型や、出音が近いイヤホンに合うケーブルだと感じました。最も、購入してからプラグとコネクタを私が換装しましたので、ハンダ付けの下手さが原因でノイズが増えたりしているという可能性はありますが.... 笑

VEGA + Night for Night

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A5 + VEGA + Night for Night ミニミニはSXC8

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今回の目玉構成。勿論ダイナミック型と相性が噛み合うようアテをつけて購入したわけですが、これが本当に良かった!
音抜けが良くクールで、低音が支配する空気感、ゆったりした音響感が伝わって来ます。帯域バランス的には純正での深く重い低音はそのままに、高音域の解像感が大きく増した弱ピラミッド型だと感じます。VEGAならではの音場の広さを保ったまま中高音域の解像感が向上し、音の重心が程よい高さになりました。中高音域の情報量は8芯のSignal mkⅡには劣りますが、とにかく音場感が抜群に良くなり見通しが全然違います。LYRAⅡ同様VEGAは出音の鮮やかさは控えめで繊細さに重きが置かれているという特徴があり、この部分が全く濁されていないのも非常に好印象です。
不満が無いわけではなく、RE2000のようなどんな音源でも万能に聴ける音ではないですし、レビュワーによく言われる「無印VEGAの高音頑張ってる感」も解消していません。しかし、チューニングといい音色といいVEGAの個性とマッチしたベクトルに仕上がっていますし、何よりもVEGAにしか出せない低音を保ったまま音色が明るくなり広い空間を感じられる音になったのが満足です。
また、この構成については、音像がはっきりする代わりに中音域に盛り上がりがあるMojoよりも全体の解像感を満遍なく上げてくれるA5の方が適役でした。
VEGAを複数のケーブル、構成で聴いて思ったことですが、VEGAについては下手に帯域バランスをいじらずに純粋にパワーを上げるか解像感を上げるようなケーブルの方が良いと感じました。Twitterで「Reference8との相性が良かった」と言っている方が居ましたが、その方は私と同様VEGAのキャラを潰したくない方なのかと思いましたね。勿論VEGAはダイナミック型の中でもかなりのパワーを要しますので、今回の構成も全然パワー不足で、実力を出し切るには据え置きしかないという印象です。

最後に、少しケーブルレビューと話がそれますが、VEGA+Signal mkⅡもネットレビューで勧めている方がいた構成ですので、私がVEGA + Signal mkⅡで感じた違和感の理由について言語化しておきたいと思います。
VEGAを一言で表現すれば、「イヤホンとは思えない低音が味わえるイヤホン」なのですが、決して低音厨が期待するような量感は出ていませんし、ブーミーに響く低音でもありません。VEGAの低音は量ではなく質がミソ。言うなればどのイヤホンよりも深く、そして静かに沈む美しい低音です。私はVEGAの真価は「低音が支配する空気感」にこそあると思います。低音が他音域をマスクしないけれど全体に影響を及ぼすように響き、他音域と合わせて独特の空間表現が生まれるという流れです。この部分が潰れてしまうと「それ、VEGAである必要なくね?」と思ってしまうので、音像濃密型のSignalはVEGAのキャラを潰していると感じた、というわけです。
私はリケーブルにおける「相性が良い」という表現も解釈が分かれると思っていて、「そのイヤホンの粗となる部分を埋めて中庸で何でも聴きやすい音にしてくれる」ようなものを相性が良いと言う人も居れば、「そのイヤホンが持つ個性にフォーカスし、それを崩さないまま音質向上して唯一無二の音にしてくれる」ようなものを相性が良いと言う人も居ると感じています。前者は一点物で何でも綺麗に聴ける事を重視する人に多いタイプだと思いますが、私は気分や聴きたい音楽次第で複数のモデルを使い回すタイプのユーザーで、故に私の「相性がいい」の解釈は後者です。ANDROMEDA然りVEGA然り、万人受けしない個性派揃いのCAイヤホンだからこそ、尚更キャラを追求してオンリーワンの愛機を作りたいと思いますね。




・余談
VEGAに換装予定で購入していたSignal mkⅡについては、LYRAⅡに換装してみたところ意外なほどにしっくり来ました。元々LYRAⅡがそこまで空間重視の音創りでは無かったという事もありますが、LYRAⅡの野太い低音とSignalの濃密な情報量が噛み合って一気に繊細かつ厚みのある音色になりました。帯域バランス的には中域が濃くダイナミック型らしさは薄れましたが、中高音域の情報量が増えて全帯域が濃密になり、これまで聴いたことがないタイプの音が出来上がりました。決して自然な鳴り方ではないものの、リスニング機としてはかなり楽しいです。どの音源を聴いても及第点以上にキャラを出してくれるので、地味に相性の良さレベルはVEGA+Night for Night以上かもしれません。
VEGAでどうにも使い物にならなかったSignalが、似たようなタイプだと思っていたLYRAⅡでしっくり来るんですから、やっぱりリケーブルは面白いですね。

・総評

破格の安値で入手したNight for Nightでしたが、期待以上の音質変化で驚かされました。Day for Nightと仕様的にはそれほど変わっていないはずなのに、エネルギッシュな響きが特徴のDay for Nightと打って変わってこちらは繊細な音と広い音場感が最大の特徴になっています。グレード差もあるものの、私はDay for Nightよりこちらの方が断然好みでした。
また、銅線ベースのケーブルながら高域寄りで、高音の解像感がかなり向上するのにも驚かされました。帯域バランス的には元のイヤホンに高音が足されて低音の量感はやや減りますが、低音の沈み感自体は変質せず、銅線らしい深く沈む特徴を保っています。
ネット評価を見るとAcoustuneのダイナミック型イヤホンと特に相性が良いと評価されていますが、実際に聴いてみた結果、程度の差はあれどピラミッドバランスのダイナミック型とは比較的相性が良いのではないかと思いました。
扱いやすさについては言わずもがな大満足で、セール時(ポイント還元で実質30000円ほど)であれば唯一無二の選択肢になりうるケーブルだと思います。